ロセンの愚王と死神
愚かな王によって閉ざされたロセンの門。
本来そこを訪れる理由などないのだが、その時なんとなくそこを訪れたのは、何かの運命もしれない。
大鎌を持った、後に「青い死神」とまで呼ばれる少女と会うために。

屈強な門衛ともめているのは、まだ少女とも言える女性であった。クリスタルよりは幾分か上だろうが。
見た目の可愛らしさとは裏腹に、大きな鎌を片手に持ち青い鎧に身を包んでいた。ただし鎧とは言っても、覆うところの少ないごく軽いものだ。先手必勝を旨とするのであろうのは簡単に見て取れる。
しかしながら、まったく臆することもなくたったひとりで門衛に挑戦的な態度を取っていた。
何やら、娘がなんとかと言っているようだ。
そういえば、とクリスタルは思い当たった。
このところこのロセン近辺で若い娘が消えるという事件が何件か発生していることを聞いた。
それがこのロセンの国王の仕業であるとでもいうのだろうか?
「ちょっと、そこの! こいつら人さらいなの。さっさと手を貸しなさいよ!」
ふいにお呼びがかかったことに驚き、つい、自分を指差す。
「そうよ、他に誰がいるっての!」
自分でケンカふっかけておいて人を巻き込むとは、なかなかいい根性をしている娘だ。しかしクリスタルは、実際に人さらいが頻発しているというのであれば、放っておけない由々しき問題であると思った。

この門衛たちは、クリスタルたちとこの女性の前には大した相手ではなかった。
しかし恐るべきは、この女性の鎌さばきであった。あっという間に行動し、動きに無駄がない。まさに隙のない身のこなしである。おまけに、大鎌というものは重心が取りづらく、よほど使い慣れているものでなければあのような動きで使いこなせるものではない。
むしろクリスタルたちの支援は必要なかったのではないかとすら思える。
女性はぐったりした門衛のひとりの首根っこを捕まえて尋問する。
「へえ、なるほどね。やっぱりペウダの差し金だったんだ」
大鎌の女性はその軽い口調とは裏腹に、厳しい目をしていた。・・・だが、どこか楽しそうな表情をしているのも見逃さなかった。
尋問された門衛は、先ほど誘拐した娘はすでに国王のもとへ連れていったと白状した。
娘がどうなるかは想像に難くないが、クリスタルもルルアンタを助けるために人さらいのもとへ単身乗り込んだことを思い出すに、若い娘には相当な恐怖だ。・・・あの時、ゼネテスがぎりぎり助けに間に合わなかったらどんな目に合わされていたことか。
早く助け出してあげなければ。それは彼女も同じ思いであるらしく、クリスタルの腕をぐいと掴み、説明もなく歩き出した。
「あたしカルラ。ディンガルの兵士よ」
そう言いながらも足は止まらない。
聞けばこの周辺の警戒が任務であるらしいが、偶然人さらいの現場を見かけて追いかけてきたらしい。
「ところで、どこへ行くのよ?」
クリスタルのもっともな疑問に、カルラは足元の背の高い草を払いのけながら言った。
「ディンガルの情報網をナメちゃダメよん。抜け穴のひとつやふたつ、調べはついてんの。あいつらに門を開けてもらってもよかったんだけど、それじゃ警戒させちゃうじゃない?」
「わたしはまだ、助けに行くとは言ってないわ」
「うそつけー。助けなきゃって顔してたくせに!」
カルラはよほど観察眼が鋭いらしい。

しかしその抜け道を抜けるのはそんなに簡単なことではなかった。カルラ曰く、以前ネメアがロセンに戦いを挑んで以降、ペウダは警戒心が強くなり、城の中にモンスターを放しているとのこと。確かに、この地下道で何回かの戦闘をこなすハメになった。
抜け道の見張りをルルアンタたちに頼み、カルラはクリスタルを伴い、城内の廊下へと出た。
「ペウダの部屋はすぐそこよ」
言われるまでもなく、かすかに女性の悲鳴が聞こえた。
聞きたくもないが、その声の聞こえた扉に忍び寄り、聞き耳を立てた。幸運なことに鍵はかかっていないようだが、もしかかっていたといても、カルラは開ける気でいたらしい。・・・その技術をどこで習ったのかも聞きたくはないが。
やはり想像した通りのことがらが起きているようで、クリスタルは頭を抱えた。まったく、男どもの考えることといったら!
カルラはバンと扉を開き、なんと素早いことに周りの兵士が動き出す前にさっさとペウダの前にたどり着いてしまった。
娘を庇うようにこの愚王に鎌を突きつけて、カルラは脅すように挑発した。
「このエロおやじが! そろそろ、なにしようっての?」
出遅れてあとから追う形になってしまったクリスタルは、阻止しようと近寄ってくる兵士を魔法で牽制しながら、やっと思いでカルラのもとへとたどり着いた。魔法のキャストにもう少し時間が短縮できないものかと苦笑してしまう。
ペウダの言い訳は、それはひどいものであった。国政で神経をすり減らしている、国民の10人や20人どうしようと勝手だ、それで自分の気が晴れればそれでいい、と。
クールに見えるカルラもさすがにその言い分が頭にきて、自分の武器をかなり本気で握りなおした。
だが、とクリスタルは思い、その前に立ちはだかった。
「・・・・・・何、ジャマしようっての? こーんな王様、いない方が国民のためになるって」
「でも、命まで取る必要はないでしょ? それに、こんな王でもいないと国が分裂するわ。他に国をまとめあげる指導者が立たない限りはね」
「何を甘ちゃんなことを!」
カルラはふっと鎌を振り上げた。
が、その動作は中断させられることとなる。

気がつけば、カルラ自身もクリスタルも、そして連れ去られた娘も、身体が宙に浮いていた。

なにが起きたかと思ううちに、身体が地面に叩きつけられた。
「いったぁ~・・・」
カルラと女の子も同じであったらしい、同時に声が漏れた。ここに槍が上に向いていなくて本当に良かった、とその瞬間クリスタルは思った。
が、そのとき同時になにか奇妙な気配が動いた。
「な、なんか見たくないものが見えちゃいそうよね」
薄暗い空間で、立ち上がりながらカルラが言う。クリスタルは頷いて、魔法でたいまつに火を付けた。
「きゃあああっ!」
娘の悲鳴が響く。そこで見たものは、巨大なアリクイのような怪物であった。そして横三方は壁、一方には鉄格子が填っていた。
「イヒヒヒヒ、ここは用済みの娘を落として余のかわいいモンスターに食わせるための落とし穴なのだ!」
頭上から愚王の声が聞こえる。
「趣味悪いわね」
眉をつり上げてぼそりと呟きながらクリスタルはたいまつを娘に渡し、火だけをこちらに向けて顔はこちらを向かないようにと指示した。
と、言うが早いか、カルラが動いていた。その鎌の切っ先がアリクイの毛を鮮血に染める。
一撃だった。
カルラの鎌は確実にアリクイの急所を捉えていた。その一撃を受けた巨大アリクイは血しぶきを上げながらどうと倒れる。
「さて、ここからどう逃げるかよね」
ここからでは見えないが、上ではきっとペウダが地団駄を踏んでいるに違いない。そして、このまま上に上がったところで黙って帰してくれるとも思えない。
そのとき、カチャリと格子が開いた。
「大丈夫、クリスタル?」
心配そうに声をかけたのはルルアンタであった。
「おっけー、急いで逃げるわよ。ペウダの奴、追っ手をかけてくるだろうから」
その考えは正しいだろう。現に上では今にも武装した兵士がロープを伝い降りてこようとしていた。
慌てて部屋から飛び出すと、格子を閉め直してその場を駆けだした。すぐにでも開けられるだろうが、時間稼ぎにはなる。

廊下の途中でカルラがふと立ち止まった。ここで自分が追っ手を食い止めるから先に逃げろと言う。
あの強さを目の当たりにしたからには、彼女ひとり置いていっても心配はない。幸いにもこの通路は、一度に2人くらいしか並べない幅である。
クリスタルは娘を先にこの嫌な場所から逃がすことを先決した。
だがやはり、心配はいらなかったようだ。外に出てややもするとカルラが追いついてきた。出口にも兵士はおらず、城に侵入した帰りの逃避行にしては楽なものである。
街道を西に逃げ、あと1日ほど行けばディンガル領というところまでやってきた。さすがにここまで来れば、逃げ切れただろう。
カルラは小さな宝石の填った指輪を娘に握らせ、家族を連れてすぐにディンガルへ逃げるように言った。逆上しているペウダは何をするかわからない。家族を知られている以上、その場にとどまるのは危険である。
娘は礼を言うと、小走りに去っていった。
「ずいぶんいいものだったわね。あなたのカッコにしては」
「なーによー。私が宝石持ってたらおかしいっての?」
その台詞とは裏腹に、カルラの声は嬉しそうだ。
「オット、ケンカなんかしてる場合じゃないや、任務に戻んなきゃ」
カルラはまたも駆けだした。そして振り向き様にこう付け加えた。
「また会おうね勇者さん! 今度は歴史の大舞台でさ!」

これが死神との運命的な出会いであった。
図らずも、これ以降ふたりは敵として出会い、更にのち同じ道を歩むのである。
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Comments
[ 7 Comments ]
愚かや大鎌とかを挑戦しなかった?


By BlogPetの猫屋敷のペルセフォネ at 2006/05/09 (Tue) 10:39:29
1ˤˢ%2527%2522
By skegcvfq at 2019/02/05 (Tue) 04:24:33
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By skegcvfq at 2019/02/05 (Tue) 04:24:35
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By skegcvfq at 2019/02/05 (Tue) 04:24:35
1ˤˢ%2527%2522
By skegcvfq at 2019/02/05 (Tue) 04:24:38
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By skegcvfq at 2019/02/05 (Tue) 04:24:40
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By skegcvfq at 2019/02/05 (Tue) 04:24:40
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