反乱と陰謀と。
反乱を、と逸る弟を、シャノンは腕を上げて制した。
「考えてもみろ。反乱がたとえ成功しても、国から軍隊が鎮圧に来て皆殺しだ。」
・・・やはりそうなるのか。
シャノンはじっとこの金髪の男を睨め付けるように見ながら思った。その話は、いかに武闘派のシャノンでも考えない話ではなかったのだ。
しかし、チャカはその考えには賛同できなかった。お貴族様がどうにかしてくれるとは思っていないし、そもそもここで諦めたら、シャノンや賛同してくれた仲間はどうなるのか。
そんな想いを知らないわけではあるまいに、動こうとしない姉に痺れを切らせた。
「俺たちだけでもボルボラを倒してみせる! みんな、行くぞ!」
シャノンが止めるのも聞かずに、チャカは数人の仲間を引き連れて走り去っていった。
「バカものどもが!」
悪態を付くレムオン。だが、シャノンにはそれを制すだけの決断がまだできないでいた。
「アンタは何を知ってるんだ? ただの旅人にしちゃ・・・」
「反乱を起こした農民の末路など、相場が決まっている。これでも色々と見てきたのでな」
ただの旅人にしては、身なりもよく教養もあるようだ。何よりも、ぶっきらぼうな態度ではあるがどことなく気品があり平民に見られるタイプの男ではない。
「それよりも、行くぞ。あいつらだけでは返り討ちだ」
それにはシャノンも文句はなかった。

* * * * *

「いいか、町に入ったらお前の名前で中止を呼びかけるんだ」
その言葉にシャノンは素直に頷く。自分が死ぬ覚悟はできているが、ケチなボルボラひとりではどうでもなろうが、国の軍隊となると町の人間たちではとうてい抵抗もできない。
レムオンはふと人の気配を感じ、足を止めた。シャノンもその気配を感じ取ったらしく、足を止め周りを見渡す。
すると現れたのは、朝広場で見かけた旅の商人だった。たしか、フリントと言ったか。
「さすがですね。・・・しかし、困りますよ。せっかく煽った反乱が中止になっては」
人の良さそうなおやじだ。しかし、そのセリフは聞き捨てがならない。
「煽った、だと?」
「シャノンさん、貴女は女性だ。もう少し言葉遣いには気を付けた方がよろしいですよ。それと、その怖いお顔もね。  それにもう遅いですよ。騒ぎは起こり、代官ボルボラは死にました」
今にも掴みかからんとしているシャノンの肩をレムオンが押さえた。
「貴様が王妃エリスの密使、石火のフリントか。・・・ボルボラを始末したのは貴様だな? こんなに早く首が取れたらこいつらも苦労はしていない」
「さぁて? まあ、いずれは切り捨てるべきコマでした。それにね、シャノンさん。貴女抜きではいささか力不足だったのですよ」
フリントが初めて出会ったときと変わらぬ顔をしてそう答えると、シャノンはレムオンを振り払い、いつでも殴りかかれるように構えた。
「あたしはまんまと踊らされてたってワケ? いったい、なんだってこんな・・・」
「あなたを利用していたのは私だけではありませんよ。例えば、そう、今貴女のお隣にいる男・・・この地の領主、エリエナイ公レムオン・リューガ・・・とかね」
シャノンは振り返って“自称”旅人を見た。道理でその名に聞き覚えがあるはずだ。思い出せなかった自分が馬鹿みたいに思える。
フリントは、レムオンの秘密に関わる”密書”を持っていると彼本人に告げた。無論、利用されていることをシャノンに認識させるためでもあろう。その内容は、シャノンの怒りを掻き立てるのにも充分であった。
だが、さすがはスパイとして活動しているだけのことはある、その怒りが向けられる前に、フリントは先手を打った。
「弟さんが長老に捕まりましたよ」と。
シャノンの顔色がさっと変わる。2人共まとめて問い詰めたかったが、その余裕はなさそうだ。
駆け出すシャノンをレムオンが追いかけた。だがそのことにシャノンは気付いていなかった。

* * * * *

弟はよほどコテンパンに殴られたらしく、目の上が赤く腫れ上がり、身体中傷だらけだった。
だが長老が雇ったという冒険者の一味は、シャノンやレムオンにとって強力な敵ではなかった。冒険者とはいえピンキリだ、危険な場所への冒険をする連中ではなく、非合法を厭わないヤクザまがいの連中なのだろう。
悔し涙を流すチャカを抱きとめ、シャノンは経緯を語った。みるみるうちにチャカの表情が険しくなる。
しかしシャノンは弟をたしなめるかのように、立ち上がってレムオンに向きかえり、このいけ好かない男に話しかけた。交渉のためだった。
「あたしもこの子も、もうここにはいられない。・・・だが、行くところもない。
あたしはどうなってもかまわないけど、この子だけは助けてやって欲しい」
悔しさに顔がやや歪んでいるのを、弟は見た。貴族でしかもこんな男に頭を下げるなど、姉にとって屈辱的なことであることは長い付合いでわかっている。
だが、真摯な目だ。
レムオンはその目をじっと見て考えるそぶりをしていたが、やがてチャカを一瞥してこう応じた。
「そこまで言うのなら、ついてこい。お前たちの所業は見逃してやる。
・・・ただし、条件付きだ」

レムオンがシャノンに提示した条件・・・それは簡単なものだった。
エリス王妃にことの次第を報告するため謁見する際、レムオンに付いて何も言わずにただにこにこ笑っていろ、というものだった。
無理難題でないことにシャノンはほっとしていたが、まさかこれが、この冷血な貴公子に体よく利用されることになろうとは、思ってもみなかったのである。
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